金属製アーマチュアは川村さんにも制作依頼をしていましたが、数が多いのでスタジオでも制作しています。
うちでは川村さんのアーマチュアを参考に内藤君が制作していたので内藤君に作り方を書いてもらいました。
アーマチュアの作り方はこれじゃなきゃダメと決まっている訳では無いので各自、自由に制作すればいいのですが形や大きさ等で色々な工夫が必要です。
うちで使用している工具も一般的ではないので、初めての人には難しいでしょうが少しでも参考になればと思います。
以下内藤著
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「金属製アーマチュアの作り方」
アーマチュアを制作していきます。
人形の身長は29.2cm(コマドリの縮尺は1/6、設定上は
身長175cm)。関節は大16コ、小2コの計18
固定用のネジ穴は股下と腰の二ヵ所

関節「大」
最も良く使われる関節大を作ります

材料は6×3×1mの真鍮平角棒、ネジは長さ10mmのM3低頭ネジ
球を挟むのは片方でも両方でも使えます

ドリルは2.5/3.0/3.3/3.7mm/1mmセンタードリル
M3ネジ切り用タップ。フライス盤をつかう場合は、ドリルは切れ味の出来るだけ良い物

フライス盤で加工していきます(ボール盤のみでもほぼ同じものが作れますが、ボール盤では3mm以上のドリルには刃先のなまったものを使います)

左端に原点を合わせ、3,8,13mmの位置にセンタードリルで1mm程度の穴をあけ印を
つけます、これが関節一個分になります。関節と関節の距離は1mm余分に空けます、
これは帯鋸で切る際の歯の厚みです。これを万力の端まで繰り返します。万力の挟めていない
出っ張った部分に穴を空けるのはやめましょう、板が反り穴の位置がズレたり万力から外れたりします
この万力は口の幅が10cmなので6個同時に作ります

印を打ち終えたら3mmのドリルで関節の真ん中に全て穴を空けます

もう一本の平角棒にセンタードリルで関節の真ん中部分にのみ印をつけ2.5mmのドリルで穴を空けます

そしてM3のタップでネジを切っていきます。タッピングスプレー、切削油の類は必ず付けて下さい

真鍮とはいえネジ切りの時や綺麗に仕上げたいときは油を迷わず使いましょう、簡単に折れます
タッピングモードにして(昇降レバーに付いているボタンで正転、逆転を変えられるモード)
回転速度を最低の分速100回転にしてタッピングします。油は小まめに吹きます

一往復させて抜ける手前でチャックから外し、手で抜きます
電動だとドリルが外れる際に上部のネジ山が潰れる場合があるからです、上手い人は関係ないのでしょうけど
両方とも両面のカエリを取ります、400番の紙ヤスリで磨き


ネジで留めます。このとき二本を穴を空けた時の向きで揃えましょう
下側にネジが出ていると邪魔なのでスペーサーを噛ませます

瞬間接着剤を隙間に流し込み固定して

二本をしっかりと密着させ、ドリルを差し込み位置を合わせ直します
3.3mmで貫通させ3.7mmで穴を広げます

関節をこのまま量産します、穴から位置を測って印を打ち

2.5mmで貫通させたあと、フライス盤に付いている縦軸のデジタルゲージを使って
3mmドリルで3.1mmの深さの穴をあけます(カエリを削り落とすために少し深めに掘っています)

ネジを切り、締め付けます、あとは前の手順を繰り返しです
切り離す前に側面に傷を付けて、バラバラにした後などにペアが分かる様にします

触って気になる様ならヤスリがけをします、カエリが小さい時はそのままでも構いません
帯鋸で切断します。カタログだとステンレスも切れる奴です、金属用であれば手鋸でも何でも良いです



ベルトサンダーで角を取ります、熱くなるので水に浸けながら形を整えます


「真鍮球」

直径は1/4インチ(6.35mm)の真鍮球に3mmの穴を開けます


固定するための治具ですが、二枚の金属板に開けたい径の穴を開け二点で挟み込んで固定します

中心列内側が2mm用、外側が3mm用

治具は真鍮や鉄でも十分使えますが、ここではより堅く長持ちするステンレスを使っています
締め付けすぎると球が潰れるので軽い力で締め、ドリルも切れ味の良い物を使い、回転数を最大にします

油を注しながら入り初めと終わりは丁寧にやります(切り口にカエリが出ると関節の動きが狭くなります)。

「ジョイントパーツ(多目的パイプ)」

腰や胴体のジョイントパーツ(多目的パイプ)を作ります

4mm角パイプを切り出して、3mmのエンドミルで溝を掘ります

両側が掘れたらハンダ付けする際の逃げ道の穴を開けたら完成です
これは色々な使い方が出来る物で3mmの角パイプを真ん中に差し込んで簡単に十字がつくれますし
考え次第でなんとでもなります。

「固定用ネジ穴」
人形台など、撮影時に固定する時に差し込むネジ穴をつくります

3mm真鍮角棒に2mmのねじ切りをします。(角棒の長さは股15mm、腰6mm)
万力の端に挟み、左右から板を当て垂直を出します

6mm真鍮丸棒を角棒に軽く当て原点を出し、


5mmエンドミルで凹凸を削り、

センタードリルで印を打ち、

1.6mmのドリルで貫通させM2のねじ切りをするのですが、

ねじ切りの前に万力を少し緩めておきます
角棒の肉厚に余裕がないので緩めないと、挟む力で歪み(気がする)折れます

ねじ切りやドリルはM3を下回ると急に強度が落ちるので、手でチャック回し差し込みます
ある程度差し込み垂直が出たらチャックから外し、手動でやります

ねじ切りをしていてキツくなってきたら反転、削りカスが溜まってきたら時々外しましょう



油は注し過ぎるくらいでいいと思います。カエリを取って受け軸の完成です
「太もも」を作ります


5mm角パイプを5mmで切り出し、4mm角パイプに押し込みます

このとき真鍮同士のふれあう部分にヤスリ掛けをしておきます、ハンダ付けをした際の
食いつきを良くするためです。これをしないと後々外れるかもしれません。

関節を取り付けるよりも先に一旦ハンダ付けします
フラックスは必ず使いましょう、ただし種類は何でもいいです
異種金属 真鍮+鉄 ステンレス とかは専用のフラックスが販売されていますが
真鍮同士なのでどのフラックスでも簡単にくっつきます。

加熱にはプリンス製ガスバーナー(火力1300°)を使っています、火力を調節でき火を点けっぱなしに出来るので
複数ハンダ付けする際や、置いて両手を空けれるので便利です
(代用品としてはキャンプ用とかで売られているライターを燃料にするポケットガストーチなどがあります
ただ少し壊れやすいのと、連続使用で本体が熱くなることが問題ですが一応使えます)

ハンダには大量の種類がありますがどれでも構いません、フラックスと加熱をしっかりしてやれば同じ様にくっつきます。
写真の物は基板用のものです。

フラックスを一滴つけ、ある程度加熱しつつ隙間にハンダを軽く触れさせます

ハンダはほんの少しで構いません、流し込んだ反対側からハンダが見えれば成功です
いくらハンダを盛ってたとしても反対側に流れていなければ失敗です、使っているうちに外れるかもしれません
色が変わるほど熱くなっているので水に浸けながら真鍮ブラシで磨き
余分なハンダを鉄ヤスリで落とし、関節を取り付け位置を決めます


関節を上側だけハンダ付けします。固定するネジですがバーナーで炙るとメッキ済みでもすぐ錆びるので
錆びたネジを使い回すか、炙っても錆びないステンレス製を使いましょう。



「腰」の制作
真鍮球に棒を固定します
棒を縦方向にやすり(傷を付ける感じ)、棒の頭を少しだけ引っ込ませフラックスをつけます



力のかかる場所なのでフラックスが下側に染み出るのを確認してからハンダ付けします
球と球受け(関節の穴)についたゴミやヤニは真鍮ブラシできれいに磨き、傷や汚れが着かないようにします
小さな傷や汚れでも、いざ組み立てて動かすとお互いを傷つけあってボロボロになります
ハンダは余分なところにはつけず、必要最小限にしましょう
球に限って水で冷やさない方が良いらしいのですが(自然冷却)、作業速度を上げるため私は浸けています
組み立て
切り出したパーツを組み立てていきます、棒の長さなどヤスリで微調節をします

腰の軸にはねじ切りした物を使い固定用のカバーを着けます

基本的に関節は最後に固定するのですが、何度かに分けて加熱する場合ハンダ付けし終わった
部分には濡れティッシュ掛けて保護します(特に球は重要)



軸部分に付いたハンダはデザインナイフなどで奇麗に取りましょう

「すね部分」
両端が球の場合棒に穴を開けそこからハンダを流し込み、球の軸までハンダが流れてくるのを確認します
穴は空気穴でもあります。

「足首」
関節大を少し切断して仮組、ハンダ付けします

基板用のヒートクリップ(アルミなのでハンダが付かない)や
逆作用ピンセットは複数用意しておくと何かと便利です


「つま先」
つま先を切り出します


人形が屈んでいたり左右のどちらからでもネジ止め出来る様に
つま先の固定穴は2つ、角度を付けれる万力(U型アングルバイス)角度を20度に設定、挟んでエンドミルで削ります。

ケガキ針で印をつけ固定用ネジの穴を開けます(2mm)


現物合わせでつま先関節の高さをを決めつつハンダ付け、組み立てて完成。

「胴体」
固定軸付き



「胸パーツ」
多目的パイプを使って胸の中心パーツを作ります



十字
関節のネジ穴の向きは人形の背中側、人形の右半身側に統一します。
後で関節を締め直す場合、人形に穴を開けないといけなくなるので極力目立たなくするためです。

「鎖骨」を作ります

「腕」
肘用に一回り小さい関節を作ります

使う球は1/5インチ(4.75mm)、球に空ける穴は2mmです。

厚み2mmで5×12mmの平角棒を切り出します、ネジ穴はM2、球受け穴は2.4mm、挟む角棒は5mm。
球も関節も寸法が違うだけで手順は前の作業と同じです。



手首は差し込型にするのでアルミパイプを使います、径の大きいドリルで穴の入り口をえぐっておきます。

ハンダ付けした後金属用エポキシボンドを流し込みます、ボンドの触れる場所も念入りにやすっておきます。


「頭部」を作ります
関節がそのままだと長すぎるので、設計図の寸法を合わせるために余分な部分をベルトサンダで削り落とします。


球の丸棒との接着面を広く取るために4mm角パイプのパーツがネジ側に飛び出しています。
関節が挟み込んでいる6mm角パイプをネジ側に寄せ過ぎると保持力が落ちるからです。

頭には石粉粘土をつけるので引っかかりを付けます(真鍮の切れ端、余り物)

「手のひら」を作ります
糸ヒューズの20A(直径約2mm)、10Aを使います。

20Aで軸を、10Aで指を切り出したら半田ごてでハンダ付けします。

糸ヒューズの融点はハンダより高いのですが長時間加熱し続けるとさすがに溶けます。
指の重なっている(盛り上がっている)方が手の甲です、指先やハンダした部分の角は
人形の皮膚を突き破らない様にニッパーで丸くします。

マスキングテープを巻いて手首の位置と太さを調節して完成です。


軽くねじを締めながら関節を全方向に回し、関節と球を馴染ませます
一方向にだけ繰り返し動かすと傷跡がつき動きが硬くなるので気をつけましょう

全てを組み立ててアーマチュアは完成です。
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以下材料情報
基本的にネットで検索すれば大体見つかるしホームセンター等でも扱っていると思います。
ちなみに真鍮の球はこちらで購入しています。
http://azuma-eg.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=856534&csid=0
金属製のアーマッチュアは動きは精密になりますが制作するのが大変なので、簡単でいい物や小さな物の場合はアーマチュアの手に使った糸ヒューズを芯にして人形を作る事も有ります。
(糸ヒューズには鉛が含まれているので、中毒にならないように念の為気を付けましょう)
購入しているのは秋葉原に有る坂口電熱さん
糸ヒューズはネットではなかなか売っていないので、コマドリストはほぼこの店に行き着きます。
http://sakaguchi-dennetsu.co.jp/lineup/index.htmlネット販売はしていませんが問い合わせると郵送販売も対応してもらえます。
以下は以前教えて頂いた糸ヒューズの種類と金額です。
1)1A 約200g φ0.3 単価2,690円
2)2A 約200g φ0.5 単価2,300円
3)3A 約200g φ0.6 単価2,300円
4)5A 約400g φ0.7 単価1,650円
5)10A 約400g φ1.0 単価1,650円
6)15A 約400g φ1.5 単価1,650円
7)20A 約400g φ1.8 単価1,600円
8)30A 約400g φ2.3 単価1,600円
9)40A 約400g φ2.6 単価1,600円
10)50A 約400g φ3.0 単価1,600円
納期:5日間
荷造運賃1,300円+代引き手数料300円(合計金額3万円未満の場合)
消費税:合計金額の8%